友情Price?
「あちー。ったくもう九月だってのになんでこんなに暑いんだよぉ」
「君は今までずっと走り回ってたからだろ?はい、タオル」
さんきゅ、と言って、彼は差し出された真っ白なタオルで顔を拭う。まだ容赦なく照りつける日
差しを避ける場所も無い、土手沿いのグラウンド。その斜面に二人並んで腰を降ろした。
最初はなんだかんだと文句を言っていたマネージャー業も、今ではすっかり板に付いてしまっ
た。こうやって休日に、汗まみれ泥まみれになってはしゃいでいる彼らを見るのは正直なところ
、最近楽しみになりつつある程だ。
「いやぁ、今日も走った投げた取った!」
「お疲れ様。なんか最近、チームの調子も良いんじゃない?」
「あ、お前もやっぱそう思う!?だよなー。なんつーか、こう、士気が高まってきたというか。
メンバーのプレーも読めるようになったっていうか」
「うん。外から見てると、纏まってきてるのがわかるよ」
「だろ!?日々の練習の成果だな。・・・あー、でもまだまだ、師匠に一歩でも近づく為には、現
状に満足しちゃダメだよなー」
人に優しく、自分に厳しく、曲がったことが大嫌い、という現代の若者の中では正に天然記念物
のような彼の性格を見ていると、時々とても危なっかしく覚えてくる。それぞれ帰路に着くメン
バーに、おつかれー、と手を振りながら、スポーツドリンクを一気飲みする姿も、あまりにも無
邪気というか、真っ直ぐだ。
「でも、根の詰め過ぎも良くないよ、渋谷。でさ、来週の日曜空いてる?」
「来週?あぁ、そういや練習ないんだっけ。でも確かナイターの予定が・・・」
「・・・君さぁ、週に何回野球見に行ってるの?」
「えーと、・・・大体週三くらいかな」
「週三!?・・・あぁ、君の場合お小遣いは野球観戦と野球道具に消えるのか」
「いやいや、他にも野球雑誌とかライオンズのグッツとか・・・じゃなくて、日曜日ってなんかあ
んの?」
「ん?いや、一緒に映画でも見に行こうと思って」
「は!?何でまた男二人で映画!?」
「いつも僕と男二人でナイターじゃないか」
「・・・あー、そうか。じゃなくて!野郎二人の寂しさは、この前の水族館でよーく判っただろ!
それともお前、またフられたの?」
「・・・んー。まぁそんなとこかな」
7月の水族館では、途中で渋谷が眞魔国に呼ばれて、ばたばたしていたので、あまり楽
しむ時間が無かった。だからと言っては何だが、今回は水の無い所で二人水入らずで・・・と思っ
たのだ。嘘も方便。それ位、許される範囲内だろう?
「へぇ。容姿も頭も平均点な俺なら判らなくも無いけど、エリートコース万進中の超有望株でも
そんな事が二回もあるんだな。で、村田は何が見たいの?」
「霊感戦隊タタルンジャーの映画版」
「戦隊モノかよ!?ってか今のヒーローってそんなんなの!?・・・もっとマシなのやってないの?」
「えぇ、面白いのに。タタルンジャー。ベルトじゃなくて五寸釘で変身するんだよー。それにピ
ンクはイタコの・・・」
「タタルンジャーの知識はもういいから!!とりあえずそんな縁起悪そうな子供向け映画は却下」
「じゃあ、向こうに行ってから決める?」
「・・・行ってやる変わりに、これからナイター呼んでも横でブツブツ文句言うのやめろよ」
色々言っても、ほら。結局一緒に行ってくれる。
「あ」
「どうしたの、渋谷?」
「ん?いや他に誰か誘わないのかと思ってさ」
「他?」
他に誰もいらないだろう?と言う言葉を飲み込んで、質問を返す。
何で他に誰か誘わねばならないのか。
「いや、確か今映画館で『高校生三人以上だと一人千円!』とかいうキャンペーン・・・友情プラ
イスだっけ?やってるから、そっちの方が寂しい高校生のお財布には優しいかなと」
あぁ。そういえば、そんな宣伝が新聞に載っていた気がする。映画業界もお年寄りの次に、遊び
盛りの高校生に目をつけたというわけか。
でも・・・
「友情ねぇ・・・」
言葉にすると、改めて渋谷との距離を感じてしまう。
僕らの関係は、特殊だ。普通の友達関係だけならいざ知らず、大賢者と、魔王。という因縁深い
関係。その関係はあまりにも日常とかけ離れすぎていて、気の遠くなるような昔から定められて
いた、約束された関係。
でも、渋谷は『魔王と大賢者』としてではなく『渋谷有利と村田健』としての関係を築いてくれ
ている。特殊ではなく、普通の。幼・小・中学校が一緒の友達の『村田健』との。
・・・それはとても喜ぶべきことだし、彼のそのまっすぐな心の現われでもあるのだけれど・・・
望んでしまうんだ 彼の特別を
足りないと思ってしまうんだ 彼の気持ちを
「でも、あれだよなー。なんつーかネーミングセンス的にどうなんだろうな、友情プライス。友
情・・・ってか人と人との関係ってそんな金銭的な価値に換算できるもんじゃないだろ、って。こ
いつと友達だったから幾ら得、みたいな考えってあんま根付いて欲しくないよなー。目に見えな
くても、損だ得だとか抜きにしても、関係していたいっていうか」
「・・・。」
「そう思えるような人が居れば二人だろうが三人だろうが、それはそれで損得以外の価値が絶対
に有るような気がすんだけどなぁ」
「・・・渋谷」
「ん?なんだよ、そんなニヤニヤして」
「・・・二人で、映画いかない?」
「?別に良いけど?」
僕の唐突な誘いに、彼はとても不思議そうな顔をして応じた。
そうだ。彼はこういう人間だ。
迷いを 惑いを 断ち切る 真っ直ぐな心
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初ムラユです。
…相当前に書いたので正直あんまり自分でも覚えてません。
でも伊槙にギャグがウケたらしいので良かったです。
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